発達障害のある人のキャリアアップ創出プロジェクト中間報告

2017年1月よりプロジェクトはスタートし、様々なテーマを題材にした毎月1度のプロジェクト研修、知識の補完を目的としたMANABIYAカフェ、個別相談を重ねる中で、様々なことがわかってきました。

そこで、現状を報告するとともに今後(2年目以降)に向けて意見を伺う機会として中間報告を開催することとしました。

中間報告会には約50名近くの企業、教育機関、就労支援事業者、研究者、支援者、当事者、ご家族の方々にご参加いただき、貴重なご意見とともに、ネットワークづくりの機会となりました。

<報告者>
榎本哲 (つむぐびとプロジェクト 代表)
石井京子(一般社団法人 日本雇用環境整備機構 理事長)
鈴木俊行(発達障害当事者 / つむぎ発達障害当事者会 代表)

1. プロジェクト実施の背景 「就業定着からキャリアアップへ」

「障害者雇用の現状と課題」(配布資料)

発達障害のある人は、企業研修を受けていない人が多いのではという想定のもと、新入職員研修以外は長期に研修を受ける機会がない(派遣社員としての就業、キャリアチェンジ、中途採用等、契約社員向け研修があっても内容は限定的)ため、学ぶ機会の損失、あるいは学び残しがある。
また、企業が社員に対して時間をかけて長期に育成していくことができなくなっていることも、障害者への人材育成が後回しにされている現実がある。
自身の将来を描く中で、周囲にロールモデルがみつからない、また相談できる人や教えてくれる人がいないという問題がある。
また抱えている不安についても、自身の特性によるものなのか、先の見通しを持てないことによる不安なのかわからない。
まずは、社会の標準と自身の特性を知ることから始める。
キャリアアップのステージに至るにはまだ早いといわれるが既に多くの発達障害の人が就業開始している現在、早急に考え、行動していかなくてはならない

参加者からのコメント(1)(アンケートより抜粋)
  • 精神発達障害のある方への就労~定着~キャリアアップについては雇用のアップに向けチャンスが拡がるわけですが、具体的なプログラムは存在していないため、本プロジェクトによりプロトタイプを生み出せると良い(企業)
  • 新卒の就職を逃したら学ぶ機会は激減してしまう。これは改めて言われると思っている以上に重大なことと感じた(当事者)
  • 社会福祉制度の狭間に居る学生を眼の辺りにしているため、支援の行き届かない学生がどのように生きていくのか、サポートを受けられるかを考えていくのは非常に意義がある(大学教員)
  • 当人の発達障害のみならず家庭環境も含めてみる必要性があるというところに共感した。(当事者)
  • 支援の対象から何らかの背景によって対象外になっている就労中の方々に対する支援(プロジェクト)ということで新しい試みである(大学教員・支援職)

2. プロジェクトの概要 「企業研修に準じた人材育成セミナー」

プロジェクトの概要(配布資料)

事前に特性(視覚優位、聴覚優位、文字認識、図形認識、集中力)を行い、疲れにくいように休憩をできるだけとる、感覚過敏(聴覚・視覚等)に配慮するなどの受講環境に気をつけた。

また、職場で遭遇している題材の具体的事例を使用、興味や関心をひく資料づくりを心がけ、発達障害の特性にあった(作成と説明)プログラムづくりを行った。

  • 理解を深める、集中ができる、興味を持たせるための工夫
  • 特性に配慮して文字を少なく、図を多く使用
  • 過去に使用したスライドを何度も使用する
  • 業務の種別を身近なものに関連づけて説明する
  • 具体的かつ細かな表現で説明する
  • 「言語化スキル」の向上につなげる
参加者からのコメント(2) (アンケートより抜粋)
  • 就業好事例のお話しなどから合理的配慮がなされることで当事者の力が発揮されること、ただし会社側がその方法がわからない現実やプロジェクトの役割の重大性、また人事管理、マネジメント、目標管理、セルフマネジメントのつながりの重大性を改めて考えさせられた(支援職)
  • 自分の抱えている問題を相対化できる(当事者)
  • 就労支援を利用していない人の相談できる場所として居場所、トレーニング、相談ができる場所があることで救われる人がたくさんいると思うので拡大しながら実施してほしい(大学教員・研究職)
  • 認知面のアセスメントでは認知能力(視覚、聴覚、記憶など)に加え、実行機能(注意、集中、持っている認知能力を効率的に使うための機能)面からのアセスメントを加えると実態に近づくのでは(大学教員・研究職)
  • 実践的なものであり興味深い、当事者の個別性に合わせた研修のカスタマイズの必要さは感じたが、ともに難しい課題である(大学教員)

3. プロジェクトから見えてきたもの 「自己理解、他者理解から、さらなる活躍を目指して」

プロジェクトから見えてきたもの(配布資料)

「参加者の立場から見えてきたもの」(配布資料)

参加者からのコメント(3) (アンケートより抜粋)
  • 具体的にわかりやすく企業の抱える問題を指摘されている
  • 認知特性を考えた目標に向けて(情報の出口をイメージできるような目標と)本人がともに目指していくことが重要であることを学んだ(支援職)
  • 土台を作るフェーズで目標による管理やコミュニケーション(言葉にすること)が大切ということについて理解が深まった。(企業)
  • 「見える化」や「発達障害者の就労現実と転職のループ」や「ダイバシティの実現のために必要なこと」は特に勉強になった。(行政)
  • やりがいや自分のしたい仕事のイメージがわかない人への働きかけをどのようにするのか教えてほしい(当事者)
  • 発達障害の皆さんが就職した後、長くやりがいをもって働き続けるための制度はまだ足りていないことが理解でた(企業)
  • 定着支援を含め、発達障害者への支援が進んでいることがわかったが、これからの点も多いことに改めて気いた(支援職)
  • 障害のある人の認知特性は当事者のアセスメントの視点として参考になりました(大学教員)
  • 現代社会の情報や障害者雇用の課題と可能性、手帳の無い人には何も道はないのか(当事者)
  • 企業と当事者の間でお互いの受容・希望をマッチングすることは難しいが重要である。理解者を増やしていくことが効果があると思いますが、正しい情報が伝わっていくことが大切だと感じる(当事者)

4. 今後の課題

今後の課題(配布資料)

<個別支援の仕組みの構築>

学び残している、社会人基礎力(標準的な知識やスキル)は集団的なアプローチで充足していくが個々人の特性が異なる発達障害のある人がキャリアアップしていくためには、一人ひとりの特性や課題に即した、支援環境の整備が必要である

  • 良質の支援者への相談
  • 社会人の協力者による知識の提供
  • 支援者及び協力者のネットワーク構築の必要性
 参加者のコメント(4) (アンケートより抜粋)
  • ネットワークの必要性については自分自身も痛感しており大変共感した(弁護士・支援者)
  • 課題意識にあっても人と人がつながれない、各々の分野の方がバラバラに考えているといった課題を改めて考えさせられた(支援職)
  • キャリアだけでなく本人が生きていくために必要なこと(結婚、出産、子育て、金銭管理など)に対しての支援ができると良い(大学教員)
  • グレーゾーンあるいは未診療の方へ特性や傾向をどのように自己理解していくのか、また他者理解への働きかけをしていくのか、迷いながら支援している。事例などがあれば知りたい(支援職)
  • アセスメントするときに業務の状態を把握することが企業経験のない専門職は苦手である、その点を把握できるつながりやキャッチポールみたいなことができるとありがたい(大学教員)
  • 就労するための制度については自分自身もよくわからないまま就活していたので、みなさんに周知されるといいと思った(当事者)
  • 世の中の流れが早すぎる気がしています。働く人の年齢の変化も問題になっていく中でどんな人にとっても働きやすい環境づくりができていくと良い(当事者)
  • 定型発達の人(企業の側の人)が必ずしも適切にコミュニケーションをしているわけではなく、探り合い、水面下のやりとりで上手くいっていない実情もあると思った。もっとオープンなキャッチボールができる環境のある会社が強いと感じました(大学教員)
アンケートの自由記述欄の抜粋
  • 発達障害医療で気になるのは、医療の役割として診断(評価)まではできるが、治療となると、行動上や社会経済的な問題解決が前提になるので、解決手段が、従来の医療の守備範囲を超えてきていること。時には、うつや強迫性障害、パニックなど、投薬で対応できる場合もあるが、それがある程度治まれば、本来抱える問題が顕在化する。(医師)
  • 個別性が大切なことはわかっているもののそれを実現していくためにはどうすればよいか、ということが難しくもあり、多職種の人たちで話し合って共有していかないといけないと思った
  • 自己発信ができるための言語化スキルをみがくことがプロジェクトのテーマかと思ったが、今後の雇用側のニーズとのマッチング、支援機関ネットワークへの展開に関心を持った
  • やりがいのある仕事について面白い議論があった。自分も会社から支援を受ける立場にありながら上司から他の発達障害の人に関する相談を受けている
  • 発達障害者の人たちの集まりはグループセラピーとしてとても良いと感じた
    ①発達障害当事者のコミュニケーションの問題を知ることができた
    ②一方会社側も障害者の症状(特徴)を伝える、周囲や上司に伝える努力をする機会が少ないと思った
    ①と②が上手に重ならないとダイバーシティーは進まないと感じた
    生産性を上げることが求められる中での様々な問題が健常者社員にもあるので、いかに調整していくかが大事だと感じた”
  • 発達障害のある方の就労支援がライフワークであるため、このプロジェクトに関わってみたい
  • ソフトバンクや東大先端研、東京中小企業家同友会等で推進している「ショートタイムワーク」(雇用率に算定されない20時間未満の仕事)の広がりが発達障害のある方の新たな働き方につながると思う”
  • アセスメントについてはどれぐらい実務との関連性が高いのかもう少し詳しく知りたい。人事評価についてはとても難しい問題だと思うが他社事例など情報をキャッチしながら今後も考えていきたい
  • 大学で実施している発達障害対応プログラムにも参考になった。大学から社会への移行支援についても考えていけたらと
  • キャリアアップの概念(仕事ができるようになる、昇給昇格する、自分らしく働くことができる)を明確になるとより取り組みが具体的に見えるのでは
  • 当事者の話やフリートークのようなパートで話がどんどん広がりとても面白かった。また明確に見えない部分も多いが、こうした集まりから何か進むのではないかと期待が拡がった
  • 発達障害に関する理解は高まってきていると思います。がん患者の方々に関する支援もされているようですが、同様に手帳申請外となるアトピー患者に関して支援例があればご教示いただきたいと思いました
  • 仕事のやりがいがどのレベルを表するのかによるが、この職場で何ならお役に立てるかということを中心に発言していくこと、企業と個人のマッチングがしやすいかもしれないと思った

最後に

今回の報告会は、3年計画の1年目の中間まとめという位置づけはあるものの、様々な側面から発達障害のある人の就労環境に関する課題を顕在化することができました。